商談はまず雑談で場を和ませる。多くの営業がそう教わってきました。私はこれを、やめた方がいいと考えています。
私はインビクタス代表で、サイエンスセールスカレッジ学長の岡哲也です。100社近いクライアントの営業を立て直してきました。
結論から言います。初対面の商談に、雑談はいりません。
むしろ練習していない雑談は、成果を妨げるリスクになります。優秀な営業ほど、雑談力ではなく相談力で勝負しています。
読者えっ、アイスブレイクで距離を縮めるのは営業の基本じゃないんですか?



その基本が、実はリスクなんです。理由を順に説明していきますね。
- 営業で雑談がいらない3つの理由
- 決裁者が雑談を嫌う本音
- 雑談の代わりに磨く相談力の型
- 雑談が苦手でも売れる考え方
そもそも営業の雑談とは何か
まず言葉を整理します。雑談とは、決まったテーマも目的もない、とりとめのない会話のことです。
プライベートの雑談は、友人とのんびり交わすもので価値があります。けれど営業の場面では、話の性質がまったく変わります。
友人との雑談は、それ自体が目的で価値があります。営業の雑談は商談の手段にすぎず、外しても成果は落ちません。
営業で本当に必要なのは、雑談力ではなく相談力です。お客様の役に立てるかどうかを、明確に想像させる力のことです。
商談で問われるのは雑談力ではなく、相談力です。
雑談力はその場を楽しませる力です。相談力はお客様の役に立つと想像させる力です。商談の成否を決めるのは、後者の相談力です。
営業に雑談がいらない3つの理由
なぜ雑談がいらないのか。理由は大きく3つあります。順番に見ていきましょう。
理由1 練習していない雑談は失敗のリスクが高い
私はいつも、営業は練習が大事だと言っています。挨拶からクロージングまで、何度もロープレを重ねて本番に臨むべきです。
ところが雑談だけは、誰も練習していません。雑談のロープレをしている営業を、私はほとんど見たことがありません。
一番むずかしいその場の対応を、一番練習していない雑談で乗り切ろうとする。これは順序が逆です。
話が盛り上がらず、気まずい沈黙が生まれることもあります。本題に入る前に、すでにマイナスからのスタートになります。
練習していない雑談を本番で出すこと自体が、リスクなのです。
盛り上がらず気まずい沈黙が生まれ、信頼度が下がります。本題に入る前に商談そのものが失敗に近づきます。
理由2 自信のない営業ほど雑談に逃げている
現場を見ていて気づいたことがあります。自信がなく売れていない営業ほど、なかなか本題を切り出さず雑談を続けます。
自分から連絡してアポを取ったのに、いざ会うと本題に入れない。勇気が出ないから、どうでもいい話で間を埋めます。
これは、自分の時間の価値を低く見ているサインでもあります。切り出すのが怖くて、雑談という逃げ場に入るのです。
雑談を続けるほど、本題に入るタイミングは難しくなります。急に商品の話を始める切り替えが、不自然になるからです。
この営業は何をしに来たのか。能力が低いのではないか。そう思われた瞬間に、もう真剣には聞いてもらえません。
理由3 お客様は営業と仲良くなりたいわけではない
雑談で共通点を見つけ、仲良くなってから本題に入る。多くの営業がそう考えます。けれど前提が間違っています。



仲良くなってから話した方が、聞いてもらいやすい気がするんですが……



お客様は、初めて会った営業と仲良くなりたいとは思っていないんです。
仲良くなりたくないお客様と、仲良くなってから切り出したい営業。この間には、とても深い谷があります。
営業はその谷に気づかず雑談を続けます。お客様はその間、いつ本題に入るのかと冷めていきます。
仲良くなりたくないお客様と、仲良くなってから売りたい営業。この温度差が、雑談を続けるほど広がっていきます。
わかりやすい例があります。初対面の営業に、サッカーやってるんですか、今度一緒にどうですかと誘われたら、どう感じるでしょうか。
なぜ初めて会ったあなたとフットサルをしなければいけないのか。多くのお客様は、内心そう思っています。
お客様は仲良くなるためではなく、役立つ話を聞くために時間を割いています。


決裁者ほど雑談を嫌うという事実
もう一つ知っておくべきことがあります。役職が上がり、時間の価値が高い人ほど、雑談を嫌う傾向があります。
決裁者は1日に何件もの商談をこなします。限られた時間で意思決定を求められるため、結論と根拠を早く知りたいのです。
決裁者は1日に何件もの商談をこなします。冒頭の数分の雑談が、評価を左右することも珍しくありません。
購買担当者が雑談を求めない理由は、おおむね次の3つに整理できます。
- そもそも雑談が苦手で、話を振られても困る
- 時間がないので、さっさと本題に入ってほしい
- 営業の雑談は、正直つまらないと感じている
相手によっては、雑談を振ること自体が壁を作ります。良かれと思った一言が、評価を下げてしまうのです。
相手の時間が貴重なほど、雑談ではなく本題で応えることが信頼につながります。
広がらない「止める雑談」の典型例
雑談がうまくいかない最大の原因は、一言で止まってしまう話題を選ぶことです。これを止める雑談と呼びます。
天気や時事ネタは、広がらず止まりやすい代表格です。良かれと思って振っても、会話がそこで終わってしまいます。
| 止める雑談の例 | お客様の反応 |
|---|---|
| 今日は寒いですね | 私は暑がりなので、特に |
| サッカー見ましたか | 興味がないので見ていません |
| 休日は何を | ……特に何も |
こうなると、気まずい沈黙が残ります。挽回しようと別の話題を探すうちに、商談の時間だけが過ぎていきます。
天気の話をされても、お客様の心は動きません。その話題に関心がないからです。
逆に、広がる雑談は相手が自分の言葉で語り出す話題です。問いかけて終わらないかどうかが、分かれ目になります。
ただ、その見極めは練習しなければできません。だからこそ初対面では、無理に雑談へ踏み込まない方が安全なのです。
止める雑談は一言で終わります。広がる雑談は相手が自分から語り出します。見極めには練習が要るため、初対面では本題が安全です。
広がらない雑談で時間を使うより、本題で役立つ方がはるかに喜ばれます。
避けるべきプライベート侵入の質問
距離を縮めようとして、私生活に踏み込む質問をする営業がいます。これは逆効果になりやすいので注意が必要です。
相手が自分から話していない個人情報を、初対面で聞くのは避けてください。警戒心を強めるだけになります。
- ご家族は何人ですか
- 休日は何をされていますか
- ご出身はどちらですか
- お住まいはどのあたりですか
関係を築くのに、私生活を知る必要はありません。仕事の課題や業界の話題でも、信頼は十分に育ちます。
相手が自発的に話さない限り、プライベートには踏み込まない。これが初対面での安全な距離の取り方です。
初対面では私生活ではなく、仕事の話題で信頼を築きます。
雑談の代わりに磨くべき相談力
雑談がいらないなら、代わりに何を磨くのか。答えは相談力です。お客様の役に立てると想像させる力です。



盛り上げないと、冷たい印象になりませんか?



盛り上げるより、役に立つと伝える方がずっと効きますよ。
どんなに盛り上がっても、役に立たなければお客様は買いません。逆に盛り下がっても、役立つと伝われば買います。
商談の成否を決めるのは、盛り上がりではなく役立つかどうかです。
相談力は、いくつかの段階に分けられます。私たちが提唱している進め方を、順に紹介します。
- 不満と不安を顕在化する
- 第三者話法で本音を引き出す
- 褒めて警戒を解く
- 解決後の姿を映像で想像させる
不満と不安を顕在化する
相談力の入り口は、お客様が普段感じている不満や不安を言葉にすることです。本人も気づいていない悩みがあります。
人は、自分の悩みが言葉になった瞬間に、はじめて真剣に考え始めます。だから顕在化が出発点になります。
第三者話法で本音を引き出す
悩みを聞き出すとき、いきなり問い詰めてはいけません。一般論や他社の話を使って、やわらかく投げかけます。
多くの会社でこういう悩みがありますが、御社はいかがですか。こう尋ねると、お客様は自分の言葉で語り始めます。
人は他人に言わされた言葉より、自分で口にした言葉を信じます。だから第三者話法で語らせることが大事です。
いきなり御社の課題は何ですかと聞いても、本音は出ません。多くの会社の例を挟むことで、答えやすくなります。
多くの会社で離職率の高さに悩んでいますが、御社はいかがですか。こう聞くと、お客様は構えずに本音を話し始めます。
褒めて警戒を解く
本音を引き出すには、相手の警戒を解くことも必要です。雑談で無理に盛り上げるより、具体的に褒める方が効きます。
取り組みや考え方の良い点を、根拠とともに伝えます。表面的なお世辞ではなく、見ているという姿勢が信頼を生みます。
褒めは雑談とは違います。相手をよく観察して初めて出てくる言葉なので、準備と練習が必要です。
解決後の姿を映像で想像させる
最後に、自分のサービスで悩みがどう解決するかを想像させます。ここで効くのが、映像のように描く話し方です。
解決した後、メンバーがどう変わり、チームがどうなるか。その光景が見えるほど、お客様の検討は前に進みます。
保険の例で説明します。ご主人に万一のことがあったとき、家族にお金を残せる安心を、明確に想像してもらいます。
出産に立ち会うはずのご主人が突然亡くなり、口座に5万円しかなかったとします。その出産費用をどう感じるでしょうか。
毎月30万円を残せる仕組みが、月々5000円で手に入るとしたらどうか。こう想像させることが、雑談よりお客様を動かします。
毎月30万円の安心が、月5000円で手に入る。この未来が見えた瞬間、お客様は雑談10分よりも前に進みます。


雑談が苦手でも口下手でも売れる
ここまで読んで、安心した人もいるはずです。雑談が苦手でも、口下手でも、営業ではまったく問題ありません。



自分は口下手で雑談が続かないんです。やっぱり営業に向いていないですよね?



逆です。雑談が苦手な人ほど、相談力で勝負すれば強いんですよ。
トップセールスには、無口で控えめな人が大勢います。外交的で話がうまい人ばかりが売れるわけではありません。
売れている人は、外交的でガツガツした人より、控えめで聞き上手な内向型が多いというのが私の実感です。
私の周りにも、話はとても面白いのに売れない営業がいました。逆に、面白くなくても役立つ人はきちんと売れていました。
大して面白い話ができなくても、私は売れてきました。誠実さと有用性こそが、商談で問われるものだからです。
雑談が苦手なら、その時間を相談力の練習に使ってください。苦手を克服するより、強みを伸ばす方が成果は早いです。
もし雑談ができない営業とは付き合えないというお客様がいたら、それはまれな例です。多くのお客様は、役立つ提案を求めています。
無理に雑談力を磨くより、相談力という強みを伸ばす方が近道です。
- 相手の話をじっくり聞ける
- 余計なことを言わず信頼を損なわない
- 準備した型を丁寧に話せる
- 誠実さが伝わりやすい
本題から入る商談の進め方
では、雑談なしでどう商談を始めるのか。流れはシンプルです。次の3ステップで、雑談がなくても会話は成立します。
本日はこのご提案で参りました、お時間を少しいただけますかと伝えます。時間を尊重する姿勢が信頼の入り口です。
よくある悩みを提示し、当てはまるかを尋ねます。お客様が自分の課題に気づくところから始めます。
事例を交えて、解決した後の変化を描いてもらいます。役立つ未来が見えれば、お客様は前に進みます。
本日は〇〇のご提案で参りました。〇分ほどお時間をいただけますか。こう伝えるだけで、誠実さと効率の両方が伝わります。
本題から入ると言っても、ぶっきらぼうに切り出すわけではありません。時間を尊重する一言を添えれば十分です。
最初に宣言すると、お客様は安心します。だらだら続かず、要点を話してくれる相手だと伝わるからです。
本題から入る方が、商談はむしろスムーズに進みます。
雑談力が役立つ場面はないのか
雑談力そのものを否定しているわけではありません。役立つ場面も、確かに存在します。
お酒の席や、すでに関係ができたお客様との時間では、雑談はお互いの距離を縮めます。
問題なのは、まだ何者でもない初対面で雑談を持ち出すことです。場面を選べば、雑談は武器にもなります。
初対面では本題、関係ができた後には雑談と、場面で使い分けます。
関係ができた後のフォロー、契約後の雑談、お酒の席。すでに信頼がある相手とだけ、雑談は距離を縮める力になります。
営業の雑談に関するよくある質問
雑談の悩みは、本題から入る前提に変えると、その多くが解決します。
アイスブレイクは本当に不要なのか
初対面の商談では不要です。練習していない雑談で場を温めるより、本題に早く入る方が信頼を得られます。
営業で何を話せばいいかわからない
話題を探すより、お客様の悩みを尋ねてください。よくある不満を投げかけ、当てはまるかを聞くだけで会話は始まります。
何を話すか迷う時間を、悩みの仮説づくりに使ってください。お客様の業界に多い課題を、事前に3つ用意しておきます。
雑談が得意な人もやめるべきか
得意なら関係構築後に活かせます。ただ初対面では、得意な人でも本題を優先する方が成果につながります。
天気や趣味の話から入るのはなぜ良くないのか
お客様の関心が薄く、一言で止まりやすいからです。初対面でいきなり趣味を共有したい人は多くありません。
その話題は、お客様の役に立つか。一言で止まらず広がるか。この2つにイエスと言えないなら、雑談は省いて本題に入ります。
まとめ 営業に雑談はいらない
営業で雑談がいらない理由を整理します。要点は次のとおりです。
- 練習していない雑談はリスクになる
- 自信のない営業ほど雑談に逃げる
- 決裁者ほど雑談を嫌う
- 磨くべきは雑談力ではなく相談力
- 口下手でも相談力があれば売れる
磨くべきは雑談力ではなく相談力です。不満や不安を顕在化し、解決後の姿を想像させることに集中してください。
雑談をやめるのは、お客様を雑に扱うためではありません。限られた時間に本気で応える、誠実な姿勢の表れです。
結論として、雑談をしながら相談に向かっているようで、実は深い谷に落ちているということです。
勇気を持って本題から始めてください。それだけで、商談の景色は大きく変わります。
私の経歴や相談力の考え方はMDRT4年連続・岡哲也の経歴と実績にまとめています。科学的営業の全体像はサイエンスセールスカレッジとはをご覧ください。
商談や受講に関する疑問はOKAZAPのよくある質問でも回答しています。本題から入る商談を試す前の参考にしてください。
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